昨年の劇団30周年記念公演「鋼鉄番長」を故障で降板した橋本じゅんさん。豪放磊落で破天荒で舞台からはみでんばかりのスケールのでかい演技。お馬鹿で助平でまっすぐな純情キャラをやらせたらピカ一の新感線の看板役者だ。でもみんな知っている。もう一枚の看板古田新太が天才ならば橋本じゅんは秀才。舞台の何もかも浚って行く様なその存在感はたゆまぬ努力と精進のもとに作られたものだということを。真面目で一途なそのじゅんさんが、その真面目さゆえに身体を壊して舞台を降板したと知ったとき、ファンは身体はもとよりじゅんさんの心を心配した。責任感のあまり心まで壊してはしまわないだろうかと。誰をも魅了するじゅんさんのそのチャーミングな笑顔が曇ってはしまわないかと。
でも良かった!じゅんさんは戻ってきた!その笑顔が、純情が、怒りが、慟哭が舞台を浚う。じゅんさんのオセロが観客の心を揺さぶった。泣いたよじゅんさん!本当にありがとう!

恒例ACTの大看板。
震災後初の観劇。いのうえさんもパンフに書いてらしたけど、2004年のアオドクロの観劇の際、ソワレ開場直前に新潟県の中越地震が起こった。日生劇場のロビーで夫と開場を待っていたら、ロビーが揺れた。常の地震とは違った縦揺れにロビーがざわめいた。携帯のニュースサイトで新潟震度6強であることを知り、中止を覚悟したが、結局30分遅れで芝居ははじまった。家に帰って新潟でたいへんな被害がでていることを知って愕然としたが。
エンターテインメント業界は今回の東日本大震災で大きな影響を受けた業界のひとつだろう。施設の被災はもとより、それを楽しむ人々の心のありようが変わってしまった。直接被災していない私たちの内にも、未だたくさんの避難生活を送っている人がいて、原発の事故も解決していないのに楽しんでいて良いのかという想いがある。けれど野田さんが震災直後、上演中の「南へ」の続行を決めた際に述べられたように、またいのうえさんも今回のパンフで書かれているように、私もまた劇場(エンターテインメント)の灯を消してはいけないと思う。
英国の古い町、カエルレオンに行ったときの事だ。ウェールズをドライブしていて予備知識なく立ち寄ったその町は、2000年前に作られたローマ人の要塞(Roman Fortress)の遺跡がたくさんあって小さいながら見所の多い町だった。町の周囲に城壁、中心にはお風呂(Roman Bath)、そして外れには円形劇場跡。ローマ人はブリテン島の要所要所にお風呂と道と劇場をつくりながら侵攻していったのだ。芝に覆われた円形劇場跡に立って思った。何千年も前から、人はお芝居を楽しみ涙し、舞台に自分の人生を投影してきた。演劇は人の歴史と共にある、人にとって不可欠な文化のひとつだ。ならば私もまた観客としてこの文化の灯を守り、次世代に受け継ぎたい。
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開演前のシャンパンとパンフ。
てなわけで(なんのわけだ)。震災後初の観劇!じゅんさん復活でと~~っても楽しみだったけど、地震大嫌いで、震災以来、余震のたびに心臓が縮みあがる思いをしているチキンの私(弱っ!)。ちゃんとお芝居にはいりこめるかなあと心配しながら劇場に赴いたけど、きっちりお芝居にはいりこんで、最後はじゅんさんオセロの慟哭にもらい泣きでぼろぼろ泣いてましたよ。うわわん、よかったようじゅんさん!
とはいえまあ、オセロだしね。ストーリーはびっくりするくらい原作に忠実であまりひねりなし。オリジナルキャラは大東俊介くんの沖元准なんだけど、まんま楽しんごにゃあ。ラストちかくの彼の慟哭が脚本青木さんの主張だと思ったんだけど(肌の色&男女)新味はなかった。それを考えると新感線meetsシェイクスピア第一弾のメタル・マクベスのクドカン脚本はやっぱ尋常じゃあなく凄かったんだ。クドカンの桁ちがいの才能を再認識。マクベスうっちーとマクベス夫人の松たかちゃんのバカップルっぷりと狂気は凄みがあったよにゃあ。
それと比較してオセロじゅんさんと(デズデ)モナさとみちゃんのバカップルっぷりはとっても可愛らしいけどちょい小粒。石原さとみちゃんは所作も声もかわいらしい純真無垢なお嬢様をよく演じていたと思うけど、その無垢ゆえに滅びていく儚さ愚かさ哀しさがでていたかというとちょっと?だった。そのあたりの愚かさ哀しさを大東くんの沖元准に負わせたんだろうけどあのキャラだし効果としてどうよ。
また、物語のキーである伊東郷(イアーゴー)を演じる田中哲司さんも正直ちょっと期待はずれだった。すごく大好きな役者さんで、はじめて舞台で見たのは篠井さん古ちんの「欲望という名の電車」のミッチ役。考えてみればもう10年も前かあ。若くて一途で純朴なミッチを好演してらして大好きになった。野田蜷川ケラ芝居にひっぱりだこの実力派の役者さんだけど、考えてみればセンターにきたことはなかったかも。そういった意味ではオセロの肝であるところのイアーゴーの、迸る悪意が出せていたかというとこれもちょっと?。基本いい人感のある田中さんには合わなかったのかもしれんのう。というのも例えば「天保12年のシェイクスピア」の佐渡の三世次役の上川さん、「リチャード三世」の古ちん、「メタル・マクベス」のうっちー、「朧の森に棲む鬼」の染五郎丈などなど、私がかつて観客として体験した"劇場をまるごと呑み込むような悪意を迸らせる"悪役の境地にまでは至っていなかったのがなんとも残念。もちろんこれは脚本演出のせいもあると思うけどね。イアーゴーもとい伊東郷は所詮小物のヤクザ。大物オセロをだまして滅ぼそうとはしたけど結局ツメが甘くて何もかも失うという大意にはあってるからね。
あとは印象羅列:
・じゅんさんは何度も何度も田中さんを笑かそうとしていて、何度か田中さんも落ちていて可愛かった~。きっと田中さん凄く真面目でいい人なんだろうなあ。大好き!そして耐えるんだ~耐えて大きくなるんだ~。
・よし子姐さんのレディ・ガガ似合いすぎ!歌姫よし子姐さんとカナコさんのツインボーカル、エマちゃんさとみ(中谷のほうよ)ちゃんのコーラスではじまるオープニング大好き!
・今回の目ウロコ!ミュージカル界のプリンス、伊礼彼方くん!良い役者さんじゃあないですか!声良しルックス良し所作良し歌良し演技もでかくてよし!ヨゴレも厭わないその潔さ!逸材っているんだなあ。是非準劇団員に!
・英国留学帰りのまりかちゃんが細すぎで心配になっちゃった。今回は大人の役でソツなくやってたけど、あまり深みがなかったので可哀想。今度はもっと元気のいい役で観たいなあ。
・出おちキャラの粟根さんがおかしすぎ!素敵すぎ!いやなんだかもうお腹いっぱいでありがとうございました。ラストがあっさり退場はちょい残念。
・かんべ、あずきじま、せとなかうみ - は架空の地としてあまりにセンスなし。
・モンターノ(紋太)のサンボちゃんはなかなかよかった。
・村木さんのMキャラはさとみちゃんの坊主キャラとならんで嫌いな新感線キャラだ。やめりゃあいいのになあと毎回思う。まあやるんだろうけどさ。
・今回いっそん、川前コンビめだたなかったにゃあ。インディさんとメタルさんはわかった。あ、西川端くんは前回の抜擢からけっこう目立つようになったね。ホモキャラでいくの?やめようよ~。
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私が観たのは東京2日目。カーテンコールの際に、じゅんさんが「昨日(東京初日)に言い忘れたんですが、興収の一部は大震災の義捐金として寄付します」とおっしゃってました。ロビーにも義捐金箱が置かれていました。シェイクスピアの、ローマの、紀元前の昔からずっとずっと人の歴史は演劇とともにありました。いのうえさんじゅんさんスタッフのみなさんはその歴史に寄与する尊いお仕事をされてきて、今回もまた立派にその歴史を重ねることが出来たと思います。どうか千秋楽までお怪我のないよう、たくさんの人がこのお芝居を楽しめるように祈っています。本当にありがとう。大好き新感線!じゃあ次は夏のワカドクロでねっ!
おまけ、カエルレオン(Caerleon:カエルレオンはウェールズ語読みで英語の発音はカリアンが近い)の円形劇場跡。行ったのはもう10年位前。クリケットしてたよ!

公式サイト(音がでるので注意)
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