「11ぴきのネコ」感想
井上ひさし作品にはじめて出会ったのは小学生の時だったな。デビュー作の「ブンとフン」(新潮文庫版)。ユーモア小説と思って読み始めたらかなりシビアな文明&人間風刺小説だったのでびっくりした記憶がある。その後五月雨式に小説を読み、芝居もいくつか観ているけど、まあいずれもシニカルで人間のずるさ哀しさ怖さ愛しさを描いている。
「11ぴきのネコ」もそうだ。原作は馬場のぼる先生のかわいい猫の絵本だけど、井上先生はそれをかわいらしい猫の皮をかぶったシビアな(蠅の王みたいな?)群衆劇にした。前向きで理想に満ちて仲間思いで勇猛果敢なにゃん太郎。彼がにゃん老人から聞き出した北の大きな湖に棲むというおおきな魚。それをつかまえればもう仲間が飢えることはない。彼のいざなう旅。都会の片隅でそれぞれの事情で野良ネコとなり腹を空かせた10ぴきのネコたちは、それぞれの思惑で彼にしたがっていく。
■
一見明るく陰りのないかわいらしい(でもやってんのはアラフォーのおっさん小劇場俳優だけどね)猫の冒険劇の奥底に絶え間なく流れる不協和音はやがて戦慄のラストとなって観客に牙をむく。つけたしのように語られる後日談が彼らの真実だ。ラストのにゃん十一の歌「11匹のネコが旅にでた」がむなしく悲しく劇場にこだまする。それは私たち日本人が敗戦後歩んできた繁栄への軌跡への残滓なのか。その歩みの先にいまの私たちが知ってしまったひとつの回答―無残に壊れた原発の残像があるように感じた。
てなわけで感想終わり!脚本(テアトル・エコー版/1973年)をそのまま演じているとのことなので、確かに古さはあるけれど猫たちの生き生きとした動きであまりそれも感じない。むしろこの脚本をいじって3.11以降の日本をもっと具体的に見据えた芝居にもできると思うんだけどそれをしないところが長塚くんの井上先生へのリスペクトなのだろう。素晴らしい芝居でした。
それにしてもにゃん太郎の北村"ゆっきー”有起哉さんは超ステキ。メタル・マクベスで一目ぼれしたよく動く長い手足に素敵な声。ソロ歌唱が多かったけどすっげーがんばってた。ゆっきーをはじめとして、配役は小劇場で何十年もカンバンはってきた花はないけど(ごめん)手練れの役者さんたちでもう目がハートですよ!この芝居開幕前に猫が観客席にやってきてちょっとした観客いじりをするのだー。粟根さん猫に「こんにちわ」ってごあいさつされちゃって嬉しいったらありゃしない(腐)
まあ、俳優さんはみな盤石の出来で、観るたびになにかしらかんでた転球さんもだいじょぶだったよ!年明け一発目の観劇が面白い芝居でよかったにゃあ。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
わぁぁぁ〜!nyaさん!
週末に行く予定なんです。観る前にnyaさんの感想読めてよかったです〜。
私は今年「寿歌」と「鹿殺し」を観ました。全く趣の違う作品でしたが、両方とも心をがうんがうん揺さぶられました。
ネコ、早めに行って粟根ネコさんに「こんにちは」って言われたい…。いやいや、しっかり「お芝居」を観て参ります(^o^;)
投稿: 知子 | 2012.01.23 23:31
おおっ!知子さん、コメントありがとうございます~
「寿歌」「鹿殺し」はじゅんさんと聖子さんですね!評判よかったみたいですね~!
ネコも素敵でしたよ~。是非感想をきかせてくださいね!
投稿: nya | 2012.01.29 23:39
nyaさま。
観て参りました、「ネコ」。
前半は客席にお子ちゃまの笑い声も響きわたって和やかな雰囲気でしたが、お話がすすむにつれてシリアスな空気に変わってゆきました。お子ちゃまの声もしなくなり(寝ちゃってたのかしら?)静寂の中、ラストへ。にゃん太郎とにゃん十一だけが、ずっと「自分」を貫き通し、周りを客観的に見ていたような。色々と考えさせられました。
役者さん達は皆さん素敵!当て書きか?と思うくらいはまってましたね。運動量多くて大変そうだなー。粟根さんの、他のネコの台詞の時など自分にスポットが当たってない時の細かい動きや表情に見惚れてしまいました(*^^*)
開演前、粟根ネコさんは私の席の方には来てくれず(泣)。残念…。
北村さん、私も好きですー。前にも書きましたが、やはりnyaさんと合コン行ったらカブりまくりになりそう(^o^)
チラシの可愛らしさとは違う、大人向けのお芝居。観に行ってよかったなぁと思いました。
投稿: 知子 | 2012.02.05 15:24
知子さん、コメントありがとうございます!
ネコ楽しんでいただけたのですね!役者さん達キュートでしたよねえ。ベテランぞろいなんで本当にどの瞬間に誰をみても素晴らしかったです。そして北村さんは本当にがんばってらして格好良かったです!
そんな愛らしいおっさんねこたちの童話めいてでもとってもシビアで残酷な寓話がすごい。これを「こどもとそのつきそいの大人のためのミュージカル」とした井上御大の人の悪さよ(誉めてます)きっと雲の上でほくそえんでいますよ。
受け手の度量と知量(?)を求められるお芝居でした。私も観てよかったと思いましたよ~!
投稿: nya | 2012.02.12 21:58