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「CLOUD」感想

ネットワークSEやってた頃、スニファー(ネットワーク監視ツール)でよくお客様のネットワークチェックしてた。画面を流れる膨大な16進数。プロトコル毎にカプセル化されたデータ(パケットね)。UDP、TCP、IP…ヘッダーを見つめ続ける。無機質な英数字の羅列に見えるそれには全て意味がある。その頃は有線のLANだったけど、いまは無線。パケットは空間に溢れ出す。有意信号に満ち満ちた芳醇な空間。

ネットワークにつながるあらゆるデバイス。サーバー、パソコン、プリンター、携帯電話、ルーター、スイッチ。みんなつぶやいてる。自分の存在を主張してる。

「おおい、おおい、私はここにいるよ。生きているよ。気がついて。そしてあなたたちのディレクトリー(住所録)に私を登録して。」

生き物みたいだ。そう、わたしたちは正しくネットの海に浮かぶデバイスだ。生きて、処理して、記憶して、生存信号を発呼して、他のデバイスとつながろうとして-

つながろうとしてない?つながらなければどうするの。

オガワ - あなたはどうしてそこにいるの?

すんまそん、ポエマー魂炸裂にゃんこでしたっ!と、いうわけで、スズカツこと鈴木勝秀さんの脚本・演出による「CLOUD」を観てきたよ。もちろんnyaがいちばん大好きな新感線役者の粟根まことさんが出演されるというヨコシマな理由によるものだけど、デカワンコの田村さんの好演も記憶に新しい田口トモロヲさんの舞台初見も楽しみにしてたんだ。「CLOUD」はスズカツさんの旧作「LYNX(2004年)」の続編にあたる位置づけで、主要登場人物オガワ(LYNXでは佐藤アツヒロくん)のその後ということになっているようだ。エンドウ(橋本さとし)、アマリ(伊藤ヨタロウ)、イタバシ(佐藤誓)、ウサミ(鈴木浩介)と、登場人物の名前はかわらないけれど役割と関係性はかわっている。

今回の配役(LYNXとの違い)

オガワ(田口トモロヲ) ハッカー→ライフロガー
エンドウ(鈴木浩介)  オガワの同居人→犯人?
イタバシ(粟根まこと) 医師→刑事
アマリ(伊藤ヨタロウ) ヤクの売人→チェスの相手、清掃人?
ウサミ(山岸門人) オガワの友人→イタバシの相棒刑事

さてストーリーだ。うろ覚えでごめん(年じゃのう)。そのうちCLOUDサイトにスクリプトがpdfであがる(太っ腹!)というから微調整するかも。

オガワはライフブロガー。日々の生活をネット上に淡々と記録する。食事、薬(クレストールは私も飲んでるよ>メタボ)、出合った人。彼が首からぶら下げているデバイスは「センスカム」。30秒に1回自動的にシャッターを切る、日々の生活をネットに記録するカメラ。ライフブロガーの必需品だ。

エンドウ「都合の悪いことも記録しちゃいますね?」
オガワ「あ、そういうときは切ればいいんだよ - こうやってね」 - かちり(暗転)

彼が話しているのはエンドウ。若い男だ。親しげにオガワに話しかけ、彼の人生を知ろうとする。理由はまだ秘されている。オガワは民間企業への売却が決まった団地に立ち退きもせず一人で住み続けているようだ。50がらみの彼はひとり身(離婚歴あり)、証券会社を早期退職し、その退職金で隠遁している。生活用品はネットで手配し届けてもらう。日々ネットに接続し、ライフログを記録し、ネットチェスを楽しむ。相手はアマリさん。乞われてデイトレーディングのことを教えたりもしている。デジタル・ドラッグ(違法)に溺れる。

オガワのもとに物理的に転がり込んだエンドウは秘密をかかえているようだ。オガワは特に追求しない。彼には動機がない。ただ淡々と記録を続ける。読んだ本、聴いた音楽、みなみなデジタルに変換してネット上に記憶する。ローカルPCに記録したら物理的喪失(盗難破壊)のリスクが大きい。クラウドであれば少ない。

エンドウ「でも、誰かに覗かれるかもしれませんよ。-ハッカーとか?」
オガワ「僕の人生なんてありふれたものさ。そんな価値はないよ」

「キップル」とはSF作家P.K.ディックの造語で「役に立たないごみ」のこと。自分に関わる何もかもをネットの上に再構築し、物理的なあれこれをキップルに変えて捨てていく。オガワはますます身軽になっていく。

刑事が2人やってくる。壮年のイタバシと若い(といっても30だ)ウサミ。殺人事件を追っている。特に正義感に駆られて刑事という職を選んだわけでもなく安定した公務員であったことが就職動機のようだ。しかしイタバシは犯人を「タイホではなくタイジ」したがっている。

イタバシはiPhoneを離さない。彼はTwitterに溺れている。

オガワに聞き込みをする刑事達。エンドウの写真を見せてもオガワには心当たりは無いという。でもオガワはエンドウを知っているというイタバシ。

ウサミ「わかったんですか?」
イタバシ「わからないよ。でも奴はエンドウと同じ臭いがした。どっちも社会にとっての病原菌だ。」

エンドウはハッカー。たくさんのライフログをハックして覗いた。でもどんな人生もとるに足らないつまらないものだった。 - そんな時オガワのライフログに出合って驚愕した。そこに書かれていたのはエンドウの人生そのものだったのだ。どこで覗き見していたのか?

オガワ「それは僕の人生だよ。僕の人生なんてありふれたとるに足らないものだ。君の人生が僕の人生と同じというのならそれはありふれた人生ということなのだろう」

しかしエンドウは納得しない。なぜならエンドウにもオガワ同様に妻がいたが、エンドウは妻を殺してしまったのだ。大事にしようと思っていたのに - 。オガワのライフログから削除された妻の記述。何を書いていたのか。オガワははぐらかす。ライフログは歴史。オガワは歴史を捏造している。

イタバシはエンドウを発見する。ネット上でオガワとチェスを楽しんでいたアマリの正体がイタバシだ。彼はずっとオガワを監視していたのだ。そして悲劇は起こる。

アマリもエンドウもイタバシもいない空間。オガワは途方にくれた様につぶやく。

「誰か - 誰かいませんか?」

ネットはこんなにも満ち満ちているのに。誰もいないと感じるのなら、それはオガワ - あなたがいないのだ。

舞台セットはとてもシンプル。風船がつめられているポリ袋が舞台上にうずたかくつまれている。舞台上にアマリが現れて、ポリ袋をぽんぽんと投げる。舞台からこぼれて客席にもくる。黒子役(序盤はスズカツさん本人がやってたらしい)が舞台上に戻している。オープニングでは登場人物がそれぞれのスタイルでクラウドに接触する。

舞台真ん中に台(椅子)、垂れ下がるケーブル。端子をつかんでいる動作があったことからネットワークへのアクセス手段と判断。椅子は小さめなのがもうひとつある

2方向に出入り口、花道。

三方にスクリーン(有効につかわれてはいなかった)

客席は前2列つぶして3列 X 9が1ブロック。8ブロックなので、216席(少ない!)。最前列だったので、舞台近い近い。私は円形との付き合い方がいまだに良くわからないんだ…。

超かっこいい人が開演間際に入ってきたと思ったら大杉漣さん!スタイルいい~♪若い~♪

日ネタと思われるもの - イタバシとウサミの冒頭の会話。どこまで粟根さんと門人くんなんだよ!

イタバシ46才独身。結婚したことはない。結婚願望がないわけじゃない。最近お見合いサークルにはいった
ウサミ「東京中の暗渠の地図を把握しているイタバシさん」
イタバシはTwitter中毒 - 【拡散希望】ネタ、iPhone4は私物?
ウサミは貯金が6万円。イタバシ「そりゃ貯金じゃないよ。残高だよ!」。ウサミが定期預金の存在を知らず懇切丁寧に解説するイタバシ
また、貯蓄型保険の存在もしらないので、これも解説するイタバシ(なんて親切なんだ…っーか30歳なのに門人くんが常識しらなすぎ~)

トモロヲさんよかったなあ。舞台初見だけどいい声で50代とは思えない。ある意味モラトリアムな途方にくれた少年のようなまなざしが素敵だった。世界に放り出され感も良く出てた。あとヨタロウさんは舞台の天使だねえ。舞台初見は「キレイ」。ここでも神様役だった。キレイの音楽は大好きだ!

そして粟根さん。風貌衣装(眼鏡なし短髪三つ揃いスーツ)については聞いていたけど、やっぱ円形最前で見るとインパクトあってすごかった。汗すごかったね~。冒頭のクラウド袋を投げ散らかすところから、iPhoneのバックライトに浮かびあがる横顔、エンドウに銃を向ける姿-そしてオガワに「俺を撃て」と挑発する。イタバシの狂気を鬱屈をずっとずっと観ていたいと思った。

粟根さんの狂気は静かに静かに心の中に沈殿した澱がやがて臨界を越える狂気だね。臨界を越えないまま迷っていくトモロヲさんの狂気と好対照で良かった。

千秋楽なのでカーテンコール三回。最後はみんなで円陣組んで「おー!」をやっていた。トモロヲさんが客席のスズカツさんをスタンダップ。拍手。皆でスズカツさんを舞台に呼んだけど「みなさんでどうぞ」の仕草をされて舞台にはあがられなかった。トモロヲさんは、挨拶終わってひっこむとき、いつも最後に客席のほうを向いてふかぶかとお辞儀されていた。私トモロヲさんが20年以上前、野音でやったパフォーマンス(ガガーリンの頃?)を見てるけど、こんな年のとり方をするとは思わなかった。本当に素敵だ。

個人的にはクラウドとPKDをテーマにするならもう一段レイヤー落としてつっこんでほしかったとは思う。オガワの動機無きクラウド化というガジェットにはすごく魅力を感じるけど。ただ単に「いる」「いない」で考えるのなら、ライフログで人生を捏造し、そこに向かっていくのなら、これは単なるコミュニケーション不全の話になってしまって別に手段がクラウドである必要はないだろうしね。「人が人であることの意味」を追求するのなら、論じられるレイヤーはサービスの下でなければいけない。私はプロトコルにこそ意味があると思っている。もちろんこれは私見だ。「宇宙は神のカマド説」に近いというか。

でも、役者さんはたいへんに熱演で、残るものの多い良い芝居でした。またどこかで。

CLOUD公式サイト

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コメント

nyaさんこんばんは。
感想、読ませていただきました!アナログな私にはよくわからなかった部分など「ああ、そうか」と合点がいきました。
あの空間・あの世界にぐいぐい引き込まれ、集中し過ぎて息苦しくなり…。終わって劇場を出てすぐに、大きな深呼吸をして現実に戻りました。
前半の「アワネモンド」のシーンは可愛らしくて好きです。田口さんは、何かの映像で見たエキセントリックな印象が強かったのですが(終盤のイタバシのような感じ)、穏やかな雰囲気で意外でした。
ヨタロウさんの軽やかな空気感は唯一無二ですね。鈴木さんは笑顔も立ち姿も哀しい表情も「きれいだなぁ」と思いました。カーテンコールの門人くんの晴れ晴れとした笑顔が印象的。それにしても「鹿殺し」メンバーズは各ブログで「モンドの芝居をみに行きました」と書きつつ「粟根さん素敵!」と粟根氏を絶賛。もはや鹿殺しのアイドルですな(^^)
粟根さん、すごい動いてましたよね。ビニール袋を片付ける時から走ってたし。個人的にはずっと短髪でいてほしい〜(^^;
違う角度(座席)からもう一度観てみたいとも思いますが、抱えたり考えたりする量が増えそうなので、私には一回で充分だったのかも知れません。
梅雨も明けてますます暑い日々ですが、夏バテしないように元気にお過ごし下さいね(^o^)/

投稿: 知子 | 2011.07.10 20:42

知子さん、コメントありがとうございます!

クラウド良かったですね~。青山円形というのがまだ良い空間で、濃密な役者さんたちの演技を堪能しました。アワネモンド!素の粟根さんがとことんいい人なのがわかりますよねっ。門人くんがんばれ~。

トモロヲさんは本当によかったです!エキセントリックな演技というと「鉄男」かな?今回は静謐な演技が素敵でした~。

そして粟根さん粟根さん粟根さん(大好きなので三回言う)はほんともうもう大好きで!円形で粟根さんを観られる幸せを堪能しました。粟根さんの短髪大好きです!これに眼鏡だと「花の紅天狗」の藪雨先生になります!

きっとすぐに髑髏城がやってきますよ!楽しみですねえ。

投稿: nya | 2011.07.17 00:54

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