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陰影考

昭和の庶民の生まれなので、プライベートでの海外旅行なんて高嶺の花だった。大学生の頃にはバックパッカーブームが起こり、格安航空券で海外を廻った話も身近にあったけど私には無縁と思っていた。

てなわけで、私のはじめての海外旅行は出張だった。11月の英国という、およそ観光には無縁の時期だ。

飛行機がヒースローに降り立ったのは16時頃だったが、すでに日は落ち真っ暗だった。高緯度の英国の冬の日は短い。11月ともなると、日の出は8時過ぎ、日没は16時前になる。しかも天気が悪く日照時間が極端に少ない。厚い雲の間から太陽が現れたとしても、日の光はとても弱弱しいのが英国の冬なのだ。

そんな英国でびっくりしたのは室内の暗さ。滞在したのは19世紀に建てられた小ホテルだったが、窓は小さく、鉄線の入った古ガラスで外の光はほとんど入らない。照明の照度も暗く、本を読むには手元のブックライトが必須だった。出張先のラボは窓の大きな近代的なオフィスビルだったが、蛍光灯もそんなに明るくはなく、窓の外のどんよりとした空と相まって薄暗い印象しか残っていない。これは夏に訪れた際もそうだった。

もちろん街も明るくはない。滞在した英国中部の小さな街。商店は夕刻の5時にはCLOSED。街灯はあるが、行き交う人々の顔が判別できないほどの暗さ。それは週末、ロンドンに遊びにいったときもそうだった。リージェントストリートなど目抜き通りには、クリスマスの電飾看板が光っているし、有名なSANYOのサイネージもあったけれど、決して明るい街ではなかった。日本と比べて全体的に照度は低かった。

室内では煌々と蛍光灯が点り、街はネオンで彩られる日本と比べ、英国はずいぶんと暗い国だなあというのが私のファースト・インプレッションだった。でも当時の日本がバブル景気の頃で、ずいぶんと浮ついていたので、対照的に落ち着いた大人の国という感じがして好ましく思った。

英国の冬はそれほど寒くはない(ここ数年、毎冬大寒波がきているけど)。北海道より高緯度にありながら、暖流のために、イングランドであれば東京と同程度の寒さだ。家々はセントラルヒーティング完備で、室内はとても暖かい。寒さ対策は万全なのだ。

さて、はじめての英国出張を経験して、海外旅行の耐性がついたため、今度はプライベートでの海外旅行を楽しみたくなった。折りしもパソコン業界では香港ブームが起こり、編集者である夫も香港本を編集していた。そこで香港に行くことにしたのだ。中国返還前であった。

プライベートで訪れた5月の香港は、暑くて明るかった。太陽ががんがん照りつけ、参ってしまうくらいの暑さと湿気。でもホテルやショッピングモールの冷房は寒いほど。夜ともなれば目抜き通りの彌敦道(ネイザン・ロード)のネオンは煌々とともり、まさに不夜城の赴きであった。

とびかう広東語、騒々しい女人街、煌々と明るい電脳中心。ずいぶんと騒がしい国だなあと思った。でも明るく、元気でごはんの美味しい国なので大好きになった。

高緯度の英国は、日の光が弱く、冬は日照時間が極端に少なく、また明るい時間が5時間くらいしかない。人々の目の色は薄い。そんな環境には暗く、しかしあたたかな照明(暖炉も照明代わりだ)がとてもあっている。寒さ対策もセントラルヒーティングで万全だ。

低緯度の香港は、日の光が強く、日照時間は長い。気温も湿度も高く、人々の目の色は濃い。明るい照明と快適な空調は必須の世界だ。

さて中緯度の日本はどうだろう。夏は香港より暑く、冬は英国より寒い。雨季があり、日照時間はそこそこだが、太陽の光は強く明るい。震災以降、駅や公共施設の照明は落とされ、まるで欧州の様で落ち着いていて良いじゃないかという声も聞く。しかし、私はあえていいたい。ここはアジアだ。眼の色も肌の色も薄い白人の国ではなく、褐色の眼とクリーム色の肌を持つ黄色人種の国なのだと。

もちろんエネルギー危機の日本は香港やシンガポールのように潤沢にエネルギーを消費して都市を維持するわけにはいかない。外光や夜間の余剰電力をうまく利用して、ただ単なる欧州の模倣ではない、中緯度の日本にあった照明や空調を作っていくべきだと思う。

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コメント

お久しぶりです〜いつも こっそり 来てました〜


今回のblog大変興味深く 拝見しました〜

私 イギリスは行ったことないのですが イメージは シャーロックホームズなんです。やっぱり どんよりしたグレーの街。。。ホームズのキャラクターや 文化も そんな 中で 育まれたのかな なんて。アジアにはない 雰囲気ですよね〜


香港やシンガポールの アジア独特の活気。それも また日本には ないもので憧れます(どちらも やはり未経験ですが…)


昔 台湾に2ヶ月ほど滞在したことがあるのですが やはり 元気な国でした〜夜が長くて明るいですし〜


今 エネルギーについて 考えますよね〜日本は 日本らしさを大切にして 前進したいですね〜日本人の価値観を持ってsign01原発は 外国の価値観を丸々輸入してしまったのが いけなかったような気がします〜核で苦労した国なりの見方が できていたら…何か変わっていたかも…


将来 日本が この苦境を脱して よいエネルギー政策ができたね、お手本にしたいね、と言われる国になれることを 願って〜

長々 失礼しました〜♪

投稿: みもざ | 2011.06.20 01:17

私も初めての海外旅行はイギリスだったんですよ。
確かにホテルの室内の明かりを全部つけても
我が家のリビングより暗くって、なんかちょっと
心細いような気持ちになったのを覚えています。
外が暗いのは、あまり気にならなかったけど
居住空間が暗いのは、なんだか嫌でしたね。

今も、お店や駅が暗いのは正直ほとんど気にならないです。
根が単純なのか「節電」の一言で納得できちゃって
今では違和感を感じないんですよね。
だから、「国に合った明かり」と言う考え方はしたことなかったので
ブログの内容はとっても興味深かったです。
舞台とかの照明は気になるけど、日常の照明って
あまり考えたことがなかったですから。
照明にも、その国ごとの個性とかがちゃんとあるんですね。

PS…返還前の5月の香港、返還された年の5月でしょうか?
   私も7月返還だったので、その前の5月のGWに行ったんですよ。

投稿: 雛のご主人 | 2011.06.20 11:01

みもざさん、コメントありがとうございます!

わー台湾!私行ったことないのですが、一度いってみたいです~。台湾も屋台ごはんがおいしそうですよね!

はい~、日本は世界でいちばん核の恐ろしさを知っている国なのに、いまや世界に核の恐怖を広げてしまっていることが悔しくてなりません。私自身の驕りや甘さに猛反省の毎日です。

日本には厳しくも美しい自然があり、陰影を愛する文化がある。それを生かしたエネルギーの利用を考えていかなければいけないなあと思っていますよ~。

投稿: nya | 2011.06.25 22:37

雛のご主人さん、コメントありがとうございます!

イギリスにはじめていくと、本当に日の光の弱さや、室内の暗さにびっくりしますよね~。

私もだんだんと公共施設が暗いのに慣れてきていたのですが、この間シンガポールに行った際、どこもかしこも照明が煌々としていて震災前を思い出してちょっと切なくなってこんなエントリーを書いてしまいました。

でも、これからの日本にあったエネルギーの活用を考えていかなければいけないなーと思っています。

p.s.おお、雛のご主人さんも返還の年、1997年に香港行かれているのですね! 私は香港には4,5回行ってまして、1997年はお正月に滞在しました。返還の年のニューイヤーイブはたいへんな賑わいでした~。

投稿: nya | 2011.06.25 22:50

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