「夜は短し歩けよ乙女」感想
祭りの多い下町に育ったからであろうか。夏の夜の街の喧騒が好きだ。街路樹にともる提灯。そぞろ歩くたくさんの人々。にぎやかな太鼓や鉦の音が遠くから聞こえてくる。闇と光。喧騒と静寂。期待と寂寞。生者も死者もともにあるようなナニモカモを含む夏の夜。
香港やバンコクの夜もそんな雰囲気は共通で大好きなのだ。
で、2007年本屋大賞にノミネートされたいへんな評判を呼んでいるこの小説をつい手にとって読んでみたら。まさにそんな世界。舞台は京都。ヒロインは女学生 - ひよこ豆のようにキュートでかわいい(酒豪だけど)黒髪の乙女。語り手は彼女に恋する大学のクラブの先輩。舞台はまごうことなき現代なのに、ちょっと古風な言葉遣いが奥床しくて好ましくてなんとも愛らしい小説だ。
手には酒、不埒者は必殺「おともだちパンチ」で一蹴し、さまざまな人やモノや事象に出会いながら彼女は闊達に京都の夜を歩く。虚実入り乱れる夜の先斗町。イマジネーションの奔流。「不思議ちゃん」な彼女に恋する先輩は、悶々としながら追いかける。
ま、舞台は夜の京都だけでは無く、古書市や学園祭などさまざまに変わるのだけど、構図はかわらない。冒険する乙女と追う先輩。物語の終盤、「外堀を埋めることに疲れた」先輩は、次の一手を考えあぐねているのだけど、そんな逡巡すら彼女は飄々と飛び越える。ラストシーンの二人の図を考えるとにこにこしてしまうくらいかわいらしい。
作者の方は京大農学部卒だそうで。ああ、なんとなく理系男子が書きそうな文体と人物像だなあと納得しました。いやそれが嫌いなんじゃなくってとても好ましい。浮世離れしているといえばいるんだけど、その離れ方が地上2cmくらいの微妙な浮遊感で決して乖離しているわけじゃないのが素敵。清原なつの先生や川原泉先生の過日の少女漫画がお好きな方ははまりそう。佳作な小品ですな。
P.S.居間でこの本を読んでいたら、帯の「大森望大絶賛」の文句をみた夫が「わー大森望の推奨本ってビミョー」とか失礼なことをいいやがりましたよ。いや確かにまあ。でもこの本は面白いですよ。
装丁も可愛らしいので貼ってみました。
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コメント
面白そうですね。読んでみます。図書館においてあるかな~
投稿: 俊子 | 2007.03.18 23:51
おお、俊子君、コメントありがとう!
面白いですよ~。きっとSF者にはあうと思うのだ。近所の図書館になければ私のを無期限でお貸ししますのでお申し付けくださいね~。
投稿: nya | 2007.03.19 00:03