「太陽を曳く馬」 高村薫
第一章 空空がある。
西新宿の地上五十階の高層ビルの下に立って、合田雄一郎がいま、痛いほど首を後ろに反らせて仰いだそれは、すでに築二十三年も経って白亜とは言い難くなったコンクリート塊の稜線と滲みあい、ほとんど薄汚れたシーツのような灰色をして、高さも分からなかった。しかし、ともかく空はあると、雄一郎は呟く。
来た。2001年、42歳の合田雄一郎だ。これは事件だ。
以下ははげしくネタバレしているので、小説未読の方、単行本派の方はスルーしてくだされ。
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2001年9月11日。留守電に吹き込まれた元義兄加納祐介のメッセージ「テレビを観ているか。観ていなければ、すぐにテレビをつけてくれ。ニューヨークに旅客機が突っ込んでいる - 」
東京地検をやめて地裁の判事となった祐介と警視庁の特4(捜査一課第二特殊犯捜査第4係)係長となった雄一郎。大阪と東京の間。電話でつながった二人の目前で二機目の旅客機がタワーに突っ込んでいく。
あそこに貴代子がいる -
祐介の双子の妹、14年前に別れた雄一郎の元妻が。
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21世紀の合田雄一郎は携帯電話を持ちメールを駆使して東京を闊歩する(義兄は頑なに携帯に電話をかけてこないけど)。
そして福澤彰之 - 宗教団体サンガを立ち上げいまは隠遁している禅僧。
刑死した息子秋道の墓を掘る彰之に頼まれてその墓石を運ぶ雄一郎。彼らの幾度目かの邂逅はそんな風景ではじまる。
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のっけからとばしてるよタカムラ先生!腐女子的義兄弟ファン(ごめんね先生)としては大変満足なアレコレですが、まさか貴代子さんが..(合掌)。高村作品の女性はロクな死に方をしないレジェンドがまたひとつ加わったよ。でもこれで雄一郎には本当に祐介しかいなくなっちゃったんだなあ。
とにかく雄一郎vsアッキー!背格好も同じくらいの男盛りの美中年対決にどきどきだよ。あいかわらずの高村節満開にお腹いっぱいです。また「情念」だの「隠微」だのキーワードが乱れ飛ぶのだろうなあ。毎月のお楽しみ(「新潮」年間購読申し込んじゃったし)ができて嬉しい。じっくりつきあいますよ。
で、夫がこれを読んでひとこと。「合田の身長は180cmで剣道や柔道の達人で....体重65Kgってありえないだろう。少女漫画かよ!」
突っ込みどころはそこかよ!
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