「エビ大王」感想
きたぜTeam ARAGOTO! 筧さん率いる演劇ユニット第一弾は韓国時代物。どうしてこの題材を選んだのか筧さんの意図がいまいち不明のまま観劇。これって言ってしまえばオィディプス王とリア王ベースに韓国故事演義を味付けにしたもの。歴史劇というほど骨太でなく、かといってエンターテインメントかといえば脚本に色濃く漂う儒教思想が邪魔をしていまいち乗れないのだよ。面白くないかっていうとそんなことはない。いずれも中途半端ななんとも収まりの悪いお芝居であったのだよ。
話はシンプル。筧さん演じるエビ大王には息子がいない。妻との間に七人の娘。七人目の娘が生まれた際は怒りのあまり河に流す。やがて寿命が尽きて死神が迎えに来るが、自分直系の息子に後を継がせるまでは死ねないと死神と契約し代わりに無辜の民の命を差し出す。娘達は息子作りにしか興味のない父を引退させ自分の夫に国を継がせようとする。国は未曾有の災害に襲われ、分裂し荒れる。やがて王は追放され流浪する - 流浪の果てに王が辿り着いた自分の息子を得る方法とは?
自分直系男子でない限り子の意味がないとばかり娘たちを罵り捨て殺し娘の産んだ子までも殺す。娘しか産まない妻は枯れた畑と罵り、3000人の処女を犯し息子を得ようとする - 愚かな愚かな男の話なのだ。これって女の立場でみるとどうよって感じ。でも観劇後の印象はなぜかさわやかで腹もたたないのが不思議不思議。これも筧さんの魅力なのかな。うん、きっとそう。
じゅんさんと河原総代はもう自由自在で楽しい楽しい。この息のあった死神コンビの素晴らしさ。これがないときっとこのお芝居は成立しないのでそれもなんだかちょっと腑におちないんだけどな。アツヒロはいつもの新感線風味。女の子は佐田真由美ちゃんがもうけ役。二度目の舞台とは思えない凛々しさ美しさ。殺陣もばっちり。ヒロインサエコちゃんは初舞台でよくがんばってたけど声がなあ。かわいらしいんだけど、ヒロインって作品の母性の象徴なのだから健気さかわいさよりもたくましさがほしかった。あ、こぐれさんが新感線のお約束っぽいキャラでしたな。キレてたし。
そうなのよこのお芝居、役者の力でそこそこみせてくれるけど、ベースはギリシャ悲劇+シェイクスピア、お芝居は役者の力量任せ(伊達さん、あなたはがんばっていた!)、殺陣は新感線。筧さんはなにがやりたかったのか、少なくとも今回私には見えなかった。見ごたえあって楽しかったけどそれだけが不満。Vol2に期待!
■公演情報 : TeamARAGOTO Vol.1 ~Strong Play of The World~ 『エビ大王』■公演日程 : 青山劇場 : 2005年12月8日(木)~12月23日(金) / シアターBRAVA!:2005年12月27日(火)~12月30日(金)
■キャスト:筧 利夫/佐藤アツヒロ/橋本じゅん(劇団☆新感線)/河原雅彦(ハイレグタワー)/伊達 暁(阿佐ヶ谷スパイダース)/サエコ/佐田真由美/こぐれ 修/円城寺あや
■スタッフ: 作/洪 元基(ホン・ウォンギ) 訳/馬 政熙(マ・ジョンヒ) 演出/岡村俊一 振付/近藤良平(コンドルズ) コスチュームデザイン/本間正章(マスターマインド・ジャパン)/高橋岳蔵(劇団☆新感線) 小道具/
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コメント
おいら、単純にじゅんさんと河原さん&筧ちゃんを観に行ったようなもんでした。
韓流時代劇活劇風味が予想以上だったんで、単純に楽しめました。
やっぱりおいらは『チャンバラ』が好きなんだな~と実感でした。
投稿: くまのすけ | 2005.12.19 23:55
くまのすけさんは同じ日のソワレをご覧になられたのですね!
そうですね~。じゅんさんと河原さん局面では近年まれに見る満足度合いかもってくらい大満足なお芝居なんです。そして筧さんは老人役をやっても色も艶も華もある役者さんであるなあとしみじみ思いました。大王ダンスは微妙だけど...。
投稿: nya | 2005.12.20 20:35
はじめまして。私は昨日観に行ってきました。
国民性なんですかねぇ。感情移入は全くできませんでした。
強引なストーリーが最後まで運んだのは、ホント役者の力のお陰100%だと思います。
音も使いまわしのサントラで、結構手抜きでしたね。
でも腹立ったりしないのはやっぱり役者のお陰ですね。
円城寺あやさんとパリデキのシーン、もうちょっと見たかったです。
母とのからみもあったほうがいいと思うんですよね-。
もうちょっと削ったり補足したりして再演するといいなと思います。
投稿: オロチ | 2005.12.23 21:10
オロチさん、はじめまして。コメントありがとうございます!
オロチさんのご意見に全く同感です。思い入れの全くできない脚本を役者の力技で強引に魅せる-これをもって荒事というのかと思ってしまいましたよ。
パリデギが実の父に捨てられ育ての母に虐げられ、無理やり奪われて子を産まされた後は夫に捨てられ、成長した実の子からは拒否される - ここまで虐げられる理由はおそらく彼の国での女性の受けてきた悲劇的な仕打ちの象徴だとは思うんですが、どうも悲劇というよりは虐待に見えてしまって目を背けずにはいられない。
もうちょっと日本向けにローカライズすれば普遍性のある悲劇にできたのになあとちと残念です。
投稿: nya | 2005.12.23 23:05
あー。今nyaさんのコメント読んでパリデキにそんな過程があったなと思い出しました。
パリデキが若すぎたのか「九年息子を探している」という時の流れが分からなすぎて「九年たったんか!」と突っ込みを入れずには入られませんでした。
パリテギちゃんの演技に積み重ねがなかったですね。
親に捨てられて夫に捨てられていく息子に捨てられる悲しみの積み重ねが。
パリデキの強さはその上にあるものだと思うんですけど。
パリデキの虐待に対する最後の救いが「一つ派」だとは思うんですけど「この人と生きていきます!」ってのも突然すぎて「よかったね」というより「へー」って感じでした。
だってあの二人、一緒に生きていくほどの交流はなかったから…。
確かにあのお芝居は「荒事」ではありましたね。
そこは間違ってませんね。
素材がよかっただけに「もったいない!」の一言につきます。。。
投稿: オロチ | 2005.12.27 15:09
オロチさん、再々のコメントありがとうございます!
>だってあの二人、一緒に生きていくほどの交流はなかったから…。
そうなんですよ。もう1エピソードくらい、二人が心かよわせる交流があったならラストもそれなりに納得がいったと思うんですよね。
「一つ派」の彼がこのお芝居のキモだったと思うので、それが薄く描かれたことが残念でしょうがない。演じた伊達さんの問題ではなく、脚本の問題であったと思います。
投稿: nya | 2005.12.29 00:10