「吉原御免状」感想
これは成長譚ではない。山野に宿る魂がおとことして生まれる話だ。人に会い、女を知り、慟哭を知り - 修羅の道をひとり行く - 良き男、松永誠一郎。
素晴らしかった。真っ向芝居で勝負のオトナ新感線を全肯定。
例によってこの項思いっきりネタバレしていますので、御免状観劇予定の方はご注意くださいませ~。
てなわけで初の原作つきいのうえ歌舞伎。かずきさんがリスペクトする御免状をどのようにホンにするのか、いのうえさんはどんな演出つけるのか、笑いが無いってマジか、コドモ新感線なのに原作エロエロシーンは大丈夫か...と、どきわくしながらマイ初日を迎えたよ。そしたら - すごかった! あっという間の3時間。うっとりしてどきどきして手に汗握って - 最後は勝山の一途な恋心に誠さんの慟哭に - 泣いた。いつもの楽屋落ちやしょーもないギャグはほぼ皆無。劇団員はお約束なし。純粋悪に徹する古田さん。苦悩する男前じゅんさん。眼鏡無く愚直な手下の粟根さん。男気のあるサンボちゃん。善き支配人右近さん - みなみないとおしい。
これはアリだ。さすがのいのうえ&中島コンビはSHIROHといいこの吉原御免状といい、ちゃんと結果をだしてくれるから大好きなんだ。これからもついてくよ!とりあえず次はクドカンシェイクスピアだよGO!
....先走りしました。まだまだ御免状タイムです!
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さて原作だ。パンフレットにかずきさんが書いている通り、武蔵ゆかりの二天一流、砦としての遊郭吉原、まつろわぬ道々の輩、家康の影武者譚、怪僧天海 - そして男は強くて純、ときに馬鹿。女は美しく凛として情が深い。魅力的なガジェットとヒーローと群集劇。申し分の無いエンターテインメント。この物語が世にでたころ、かずきさんはすでに初期のいのうえ歌舞伎「星の忍者」や「阿修羅城の瞳」をものしていた。そこにはすでに影武者信長やまつろわぬ民、人は恋をしてオニとなる、といったアイデアがふんだんにちりばめられていた。それが隆先生の諸作を得てさらにバクハツしたことは想像に難くない。幸福な出会い。そして16年 - 成熟した劇団が原作に立ち返る時が来たのだ。
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閑話休題。1997年、はじめて「髑髏城の七人」をみた後に興奮して書いた感想の一部。
「こんな夜は失われた過去が甦る - 緋桜の重なるその向こうから。楽の音、嬌声、忍び笑い。艶やかな人影が格子の向こうを行き交う。 ここは色町無界の里。虚ろな目をした青年がひっそりと護る里。」
冒頭、枯野の奥からたち現れる無数の提灯に火が灯る。そこに浮かぶのは「吉原御免状」のタイトル。重なる格子の奥を行きかう遊女と客。漏れる灯りと喧騒。あでやかな花魁道中 - 髑髏城を観て喚起された上記の情景が見事に形となっていたのは本当に嬉しかった。今回、場面転換はすべて廻り舞台で行っている。まわりながら会話してまわりながら走って戦って ...こりゃあダンドリ大変だったろうなあ。あまりくるくるまわるので最後にはちょっと酔ってしまったよ(三半規管ヨワイ)
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41才男盛りの堤さんではおしゃぶを娶り吉原の惣名主となった「かくれさと」の誠さんはともかく「御免状」の20代童貞純朴な剣士という設定には無理があるのでは?と思ってたら冒頭の開口一番でヤラレタ。初心で朴訥な野育ちの青年、松永誠一郎がそこにいた。おそるべし役者魂。その朴訥な青年が人に触れ女を知り変わっていくさまは主に衣装で表現されていた。衣装が洗練されるにつれ色気も増していくのだ。着流しがカッコいい!体当たり褌シーンには眼福眼福。
そして何より今回のMVPは松雪さん。いやあ客演ベストじゃないのか?というのも最近のいのうえ歌舞伎ではヒロイン的な女の子とそれを支えるオトナの女優というパターンの客演が多かった。主にヒロインの足りない要素(女の深みとか業とかその他いろいろ)をベテランの女優さんがサポートしていたのだ。たとえば阿修羅城の江波杏子/夏木マリさん、野獣郎の前田美波里さん、スサノオの根岸季衣さん、アテルイの西牟田恵さん、そしてSHIROHの秋山菜津子さんとかね。 - ところが松雪さん、これ両方できるのだ。百戦錬磨で狡猾なくのいち、吉原随一の太夫としての矜持、恋にとまどう初心な女心、そして滴るようなエロティシズム、ザッツアクトレス!不世出の女優といっても過言じゃないね!聞けばまだ舞台は二回目と言う。恐ろしい才能だ。「キレイ」の高岡早紀さんにも感心したが、松雪さんにはもっと感心した。ベテラン堤さんや古ちんを前にして一歩も引かない真剣勝負にシビレタよ。ファンになりました。もっと舞台でてください~。
わりを喰っちゃったのが高尾太夫の京野ことみちゃん...といっても私はよくやっていたと思ったよ。日本舞踊の心得があるだけあって所作は非常に美しい。原作では誠さんのはじめての女であり、そして母のような包容力で彼を包む聖なる娼婦 ... といった深みは残念ながら無かったがこれはことみちゃんのせいではなく誠さんと勝山の悲恋に重きをおいたかずきさんの脚本に大いに依存するからだろう。
原作はむしろ誠一郎と高尾の関係性に重きがおかれ、裏柳生のくのいちである勝山はどちらかといえば誠一郎が「ひと」となるきっかけ即ち「敵方の女との忍ぶ恋」「想いが通じた後の凄惨な最期」「愛する女を自ら殺す」を提供する役割を与えられているにすぎなかった。かずきさんはこの悲恋部分に焦点をあて、それを中心に物語を再構成した。結果として高尾の存在感が落ちてしまったため、「あちきの膝で泣きなんし」という原作のラストで誠一郎が高尾の膝に取り縋って号泣する名シーンがなくなってしまってちょっと残念。これが母を知らない誠さんが母の膝(=癒し)を知ってひととして生まれ出でるための最後の仕掛けだからね。
とはいえ、かずきさんは長い原作を手際よくまとめたと思う。勝山との悲恋。義仙との戦いを中心にして、その周りにちりばめられているのは魅力的な原作「吉原御免状」の世界観を観客に紹介するためのガジェットだ。そう、これはテーマパークとしての「吉原御免状」もしくは「隆慶一郎」ワールドなのだ。これもひとつの有効なアプローチだと思うし、なによりいのうえさんの演出がそのテーマパークを破綻なく魅せてくれる。
なにしろ新感線の面々はもう20年のながきに渡って「まつろわぬ民」を生き生きと演じ続けてきたのだ。二幕冒頭の道々の輩のマツリの楽しさ哀しさはどうだ。吉原が江戸の大人向けテーマパークであるなら、それを舞台で体現するのはオトナになったいのうえ歌舞伎こそふさわしい。最高の舞台をありがとう。
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キャラ寸評(敬称略) :
客演組
堤真一:惚れた!どうしてこんなにかっこいいんだ堤さん。山だしの純朴な青年から女を知り悲しみを知り滴る様な色気をかもし出すラストまでほぼ出ずっぱり。殺陣の見事さには毎回舌を巻くが二刀流になった瞬間はしびれるくらいかっこよかった。過去編で演じた幻斎もハマッてて、捨之介タイプも問題なく演じられるとわかった。懐ひろい~。これからも新感線の準劇団員として末永くお付き合いいただきたいです。
松雪泰子:惚れた!(こればっかり) こんな実力ある方がまだ二回目の舞台なんて勿体無い。顔も小さいし華奢なのに(ラブシーンで晒された足が腕のように細かったよ...)舞台の真ん中にすいと立ったとき、劇場全体を包むようなオーラを感じた。声もよく所作も美しい。「主さんに..惚れんした」は切ない勝山の恋心が胸に迫って泣けた。花魁はハマリ役だと思うが、是非ほかの芝居も観てみたいと思ったよ。
京野ことみ:いやお若いのにちゃんと芝居できてすごい。存在感がアレだったのは脚本のせいなのでちっとも気にならなかった。べリキュート!むしろおきゃんな感じを生かして傀儡子の民としての人形操りシーンを観たかったな。
梶原善:はじけてましたねえ。原作の十郎左衛門の煮詰まった感じはあまりでてなかったけど、ものの道理のわかった気持ちのよい感じがでていたのでおっけー。屋根の上で誠さんと語り合うシーンは実は原作でいっち好きだったりするのでちゃんと再現できてて嬉しかった。カテコで聖子さんと踊ってる姿がキュート!
藤村俊二:原作といちばん変わってた幻斎。生臭老人でがんがん戦う強い幻斎ではないけれどおひょいさんそのものの存在感がこんな幻斎もアリと納得させられた。家康もよかったよん。台詞が怪しいのがちょっと残念だけど(柳生と傀儡子は取り違えないでほしいよなあ)あの貫禄ならそれも許されるよ。
劇団員:
古田新太おお、天魔王以来の純粋悪。そんな古ちんもイカス。堤さんとの殺陣の目にもとまらぬ速さはどうよ!義仙はいちばん好きなキャラなのでもうちょっと葛藤とか時代に取り残された哀しさとか出して欲しかったけど...まあいいや。エロいから(それかよ!)。パンフの同い年のご友人ヤクルト古田選手のコメントに大うけ。古ちんの色気がわからず奥様(中井さんね)に「ふっ、まだまだね!」と一蹴されて愕然とする古田選手の図がいいなあ。
高田聖子:聖子さんの八百比丘尼は今回のかくれヒロイン大賞!おばばさまの「幻斎くん!」にも受けたけど、やーらかい関西弁(..素?)と年齢不詳の色っぽさが素敵。肌蹴た背中も美しく看板女優の面目躍如だ。
橋本じゅん:大人計画のキレイではちょっとフラストしてたんだけど、いやあかっこよかった今回のじゅんさん。苦悩する真面目な柳生総帥の葛藤が胸に迫ったよ。天海僧正ではもっと遊んで欲しいです。パンフのコメントはじゅんさんリスペクターのクドカン。クドカンもこの舞台見れ。そして正攻法じゅんさんの凄さを思い知ってマクベスのホンを書け!
粟根まこと:ああっ、遊びがない~。愚直なまでに真面目に裏柳生のNo.2を演じてます。むしろ過去編のならずものの親玉に萌え。べらんめえ言葉がかっこよかったよう。
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コメント
TBさせて頂きました。
何を措いても、殺陣のカッコよさと堤さんの足首に惚れました。(笑)
投稿: あわはぎ | 2005.10.20 20:44