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恐るべきエスプリ - 「クマとインテリ」感想など

ネットを徘徊していると時折僥倖の様に素晴らしいサイトに出会うことがある。

1年ほど前に偶然に辿り着いたそのサイトは、いわゆるボーイズラブ系。珍しくもイタリア政界が舞台のコミックを掲載しているサイトであった。ドラマを繰り広げるのはシニアなイタリアの政治家たち。 - 何しろ党首とか元首相とか副首相の肩書きを持った人たちなので- 彼らが、国会(!)や党本部、バカンス地などを舞台に、仕事や生活、そして何よりも恋愛を悩み楽しむ姿が、時には扇情的に、時には叙情的に、およそ誰にも似ていないスタイルで描かれていたのだ。漫画というよりバンド・デシネといったほうがそぐう様なスタイリッシュな線と魅力的な物語。もちろん恋愛するのは男性同士だけではない。なにしろ享楽的(先入観御免)なイタリア人なのだ。ホモもヘテロもあり。男性のみならず女性もたいへんに魅力的に描かれている。

こんなコミックは今まで見たことがなかった。凄い才能をみつけた!私は興奮してサイトに日参し、ファンレターを書き、同人活動をされているということで同人誌を通販で取り寄せて、ますますファンになった。

やがてサイトは休止し、件のサイト主宰の先生は商業誌にデビューされた。かの才能が広く世に知られる時が来たのである。

先生の名前はbasso。またの名をオノ・ナツメ(こちらの筆名はボーイズではない作品を書かれるときのもの)

basso名義での処女出版にして最新刊「クマとインテリ」は、先生の本領発揮のイタリア政界ものが中心。同性愛表現が苦手な方にお勧めできないのが残念なくらいの良作ぞろいの連作集。元首相とカメラマンの恋愛を描いた表題作「クマとインテリ - orso e intellettuale -」。元首相は少年好みの老紳士。なのにバカンス先で恋に落ちたのは壮年の熊男のカメラマン。実は彼の正体は -! 想定40代と60代の実に可愛らしくも大人の恋物語。60代で元首相でホモ(いやバイか、なにしろバカンス地には妻と娘とSP同伴で訪れているのである)で享楽的! - こんな設定が無理なく成り立つ世界観の不思議。享楽的なイタリア人(だから先入観御免ってば!)ならではかと思ったら、日本を舞台にした「黒山さんのニオイ」ではちゃんとbassoキャラが日本人サラリーマンとして成立していてまたまた不思議。緩急自在の恐るべきエスプリに溢れた一冊なのである。

追記 : 「Sigaro」は愛煙家のイタリア野党(共産党系)党首オリヴィエーロと党員マルコのちょっとしたラブいスケッチ@国会 - 実はこの二人は私が件のサイトで出会い、虜になった物語の主要キャラクター。彼らの更なる物語を切望!

装丁も素敵なので画像ごと貼ってみました。

オノ・ナツメ名義は以下二冊。

Not Simple 1 : 運もツキも無い青年のドラマチックな人生。オノ・ナツメ名義の絵はbasso名義のものより等身が低くコミカライズされているがその絵で残酷で静謐な物語が何の違和感なく語られる。不幸な結末から始まったサスペンスはどこにたどり着くのかまだ不明だがきっと一筋縄ではいくまい。期待。

LA QUINTA CAMERA : イタリアに語学留学したデンマークの少女と下宿先の中年独身男4人との瑞々しい交流と別れの物語。キャラのたった中年男たちと彼らをとりまく人々がみな優しく、もちろんそれだけでは無い大人の事情や関係もみな切なく愛しい。完結しているのでボーイズ苦手な方はぜひこちらを!

閑話休題。La Quinta Cameraは五番目の部屋の意。Cameraが部屋を意味するラテン語ということは、OxfordのRadcliffe Cameraを訪れた際に知った。Radcliffe Cameraは大学の図書館(図書閲覧室)のひとつ。中世の図書館は閲覧室で写本をするところであった。「写本をする部屋」が転じて写真機の意になったわけなのだ。超余談。

Web拍手でのお見舞いありがとうございました!ねこまる写真1枚更新しました。

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» クマとインテリ [音楽と漫画の日々]
よんでみました。オノナツメさんに似ているなぁ、と思って、中を見ても似てるなぁ、って思ってたら、本人だったのね。。。http://nyayuki.cocolog-nifty.com/nyas_manor/2005/06/___95d5.html私はManifestoが一番…... [続きを読む]

受信: 2005.06.27 01:29

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