WOWOW「幻に心もそぞろ狂おしのわれら将門」感想
基本的に蜷川芝居は見に行かないのだ。嫌いというわけではないんだけどね。なんとなく敬遠。でも今日たまたまWOWOWみていたら「幻に心もそぞろ狂おしのわれら将門」がはじまって、段田さんと堤さんの演技に惹かれてみはじめたらけっこうはまっちゃった。面白いじゃんニナガワ!1975年学生運動華やかなりし頃の清水邦夫脚本。頭に怪我を負い、なぜか自分は将門を追う武者であるという狂気にとりつかれる将門。将門の参謀三郎と妻桔梗はそんな彼のかわりに次々と影武者をたて、使い捨てながら落ち延びていく。舞台は将門の時代であるのに、敵方はヘリコプターの爆音とライフルの銃声であらわされ、狂った将門の頭上からは投石の雨が降る。三郎はアジ演説をぶつ。そうこれは将門一行の破滅になぞらえた連合赤軍の崩壊を描き出しているのだ。よくこんなこと考え付くなあ。そんな時代の脚本だから随所に古さ硬さが感じられるが、これは同時代の野田脚本「走れメルス」を喚起させる。考えてみれば昨年暮れから今年のニ月にかけてコクーンは野田「メルス」蜷川「将門」の70年代演劇再演リレーだったのだな。
しかし堤真一さんはなんと華やかで舞台栄えがする役者さんなのだろう。狂気に陥った将門を軽妙洒脱・天真爛漫に時には残酷に演じている。70年代演劇特有のアレな台詞の洪水もちゃんと自分の言葉にして話している。まさにカリスマ将門(本人そうは思ってないけど)。また、将門の参謀三郎を演じた段田安則さんも素晴らしい。将門に心酔しながら相反する憎悪も抱いている。彼にひきづられながらもろともに破滅していく彼のアンビバレンツが見事に感じられてよかったよ。
惜しかったのは将門の妻の桔梗役の木村佳乃さん。台詞もうまいし立ち姿も美しい。なのに薄くて固い。表情が固いのは役どころだから仕方ないにしてもどうも薄い。台詞が一本調子だからなあ。この業の深い女性の氷の表情に隠された炎のように熱い心情が感じられなかったのだ(劇場でみればまた違うかもね)
逆に感心したのが三郎の妹にして流れ巫女ゆき役の中嶋朋子ちゃん。いわゆる聖なる娼婦。しかも狂気(狂人が多いねどうも)。スレンダーな肢体が美しいし将門との狂人同士の交情が少年少女のようで瑞々しい。
ラストシーン、三郎もゆきも桔梗も仲間もみな滅びた後、戦場の喧騒と狂乱のなかで、幻の将門を探して闇雲に走る将門の頭上から無数の石礫が降り注ぐ。カタルシスはない。70年代の喧騒と狂気と挫折、苦悩と陶酔。絢爛の舞台はその残滓だ。あの狂気から何を捨てて何を得たのか。それはあの頃に青春を送ったひとたちがくりかえしくりかえし問うていくものなのだろう。そこから普遍は生まれるのかな。答えはきっとないけどね。
あと三郎の弟五郎役の高橋洋君、もったいなくない?いやーすごい達者で華もある役者さんなんでもうちょっと見ていたかったのだよ。
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