村上春樹「アフターダーク」
話題の新作「アフターダーク」をやっと読んだ。 前作「海辺のカフカ」がアレだったので、あまり期待はせずに読み始めたんだけど - とっぱなからト書きみたいな俯瞰的情景描写が続くにおよんで、本をその場でぱたっと閉じて1時間ほど逃避した。 いやいや、筒井先生だって良くやる方法だし(でもそりゃ20年くらい前の話だ) と気を取り直して読み始めたら最後までまあまあ読めてしまったことにまず吃驚した。そう、そんなに悪い話じゃないんだ。ウスいけど。
世の作家たちがなぜか重厚長大冗長方面に話をもっていく傾向にあるなかで、このあっさりさっぱり感(活字でかいしな)は貴重かもねーと嘆息気味に思ったりな。
それは繁華街の一夜、深夜12時から朝の7時までの物語。終夜営業のファミリーレストラン、ラブホテル、オフィス、コンビニ - 様々な場所に生きて、出会ったり出会わなかったりする人たち。そして眠り姫の意識。そんな話が情景描写と会話のみで進行する。ただ淡々と時間が経過して- 唐突に終わる。 それぞれのシチュエーションは放置されたままだ。まるで情景の一場面を切り取った監視カメラのように。クライマックスもカタルシスもない - これははたして物語なのだろうか?
つまり、ずっと記録される監視カメラの昨夜の6時間だけを切り取りました。おわり。そこから何かを感じ取れといわれてもちょいと私には無理で戸惑いだけが残るのだ。
しかし登場人物の会話はあいかわらずモノローグみたいだし、意味不明な行動はあるし、ラストは釈然としないし - これも立派に村上作品の特徴を持ってるんだけどね。ううう、苦しいなあ。習作といっちゃえば話ははやいんだけど、これ絶対大きな作品にはつながらなさそうだしなあ。たぶん村上春樹はマジだ。このあいだWOWOWでみたデ・パルマのファム・ファタールを思い出しちった。おーい先生、もどってきてくださーいみたいな。
別に失望はしてないし、怒ってもない。呆れても - いやちょっとはあるかな。まあ村上作品は今後も新作がでれば買うよ。嫌いじゃないんだ決してね。
ちなみに私のいちばん好きな村上作品は「パン屋再襲撃」です。数少ない「腑に落ちた」作品なのだ。次は「羊をめぐる冒険」ね。殺伐としてるところが好き。
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