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英国逍遥 その1 はじめてイングランド篇

いちばん美しい英国を見たければ6月に訪れると良い。青い空、さわやかな風、家々の庭先に咲き乱れる花。さえずる小鳥。いつまでも沈まない太陽。きっといっぺんで好きになると思う。ジューンブライドという言葉はヨーロッパのためにある。一年で一番美しい季節に祝福されて結婚するのだ。
ukflower.JPG<美しい軒先の花>

でも私がはじめて英国を訪れたのは11月だ - 。どんよりと曇った空。寒々しい空気。一寸先の風景も見えない朝の霧。枯れ木と荒野。太陽は8時に上って午後3時に沈む。漱石を気鬱の病にした一年で一番陰鬱な季節。

もう十年以上も前になる。生まれてはじめての海外、しかも一人での長期滞在。英語の訓練は受けていたが、慣れていないから覚束ない事はなはだしい。国内出張すら経験のない私をいきなり単身海外に送り出すなんて会社も無謀なことをしたと思う。

しかし誰にだってはじめてはある。不安だらけの英国出張をなんとかのりきった私は仕事に自信がついたし、一人旅もできるようになった。なによりも一年でいちばん陰鬱な季節の英国は、私にとってなにもかもが新鮮でかつ懐かしく(なにしろクリスティやビートルズ、モンティ・パイソン等で空想の世界では親しんでいたのだ)十分に魅力的に映ったのだ。

当時、私は会社の開発部門で、英国のソフトウェア製品を日本語化するプロジェクト・チームに所属していた。今でこそOSがマルチリンガル化されユニコード対応が可能となり、ソフトウェアは様々な言語環境を想定した設計がなされているが、昔はそうではなかった。特にアルファベットと漢字、いわゆる1バイトと2バイトの文字コード環境が存在し、アプリケーションで日本語を処理するためにはOSのみならずハードウェアの対応が必要だった時代の話だ。

当時のソフトウェアの日本語化は大きく分けて2つの作業が発生した。
 1.プログラムのデータを処理する箇所を日本語のデータが処理できるように変更する
 2.ユーザーインターフェース、各種エラーメッセージやヘルプ、(マニュアル)を翻訳する

そして最後に、これらを統合して日本語環境のハードウェア、OS上で稼動することを確認する。現在では、多くのソフトウェアは1の部分が最初から考慮されているため、大雑把にいえば2の部分だけ各国の言語に対応すれば良しとなる。従ってソフトウェアは発表時即各国語に対応したものが提供可能だが、過日は半年、一年遅れが一般的だったのだ。私はテスト、つまりソフトウェアが正しく日本語環境で稼動するか検証し、不具合があれば修正をするパートを担当していた。IP-VPNで高速でセキュアなイントラが存在し、かつハードに依存しないマルチリンガルなOSがある現在からは考えられまい。私は日本語対応パソコン(これは別便で発送)、OSとソフトウェアがはいった山のような3.5インチフロッピーを持って英国に渡ったのだ...。DOS/Vというハードに依存しないOSが発表される2,3年前のことであった。石器時代の話のようだよ(;-;)

閑話休題。

成田 - ヒースロー間は、どのエアラインもおおむね日本の朝11時に出発し、同日の午後4時に到着する。飛行時間は13時間。時差は9(サマータイムで8)時間なのだ。そして、11月のその時間はとっぷりと日が暮れている。暗いヒースローについた私は呆然としていた。空港は治安が良くないと聞いていたので、パスポートはしっかりとお腹にまいて、重いスーツケースを引きずって、おそるおそるバス会社のカウンターに向かった。

出張先はイングランド中央部、バーミンガムやヨークのような著名な地方都市ではなく、小さな町の外れに会社の研究開発部門があったのだ。車がいちばん便がよいので、出張する人は専らレンタカーを利用していたが、私はとてもそんな自信がない。英国で私の出張をアレンジしてくれた秘書の人は、私が海外での車の運転はできないと訴えると、コーチ(長距離バス)をすすめ、チケットも予約してくれたのであった。

コーチのカウンターで予約番号を言って、停留所を指示され、私はおそるおそる空港の外に出た。日本便が到着したのはターミナル4。ヒースローは4つのターミナルのある巨大な空港だ。3と4はアジア路線が多いため、インド系の人たちが多いのにびっくりした。当然、こんなたくさんの外国人をみるのは初めてだ。話しかけられたらどうしようーと泣きそうな思いで、バスにたどりつく。

英国は道路がとても発達している。道路は記号で表示され、大きい順にM,A,B 各記号内でも数字の1けたから4けたまで分類コードがある。さしずめMの1桁台が東名や名神などの大きな高速道路か?Bの4桁くらいになると、農道レベルになる(あくまでイメージね)。国内の主要都市はMの1桁道路で結ばれ、基本的にはフリーウェイ。料金がかかるのは一部の橋くらいだ。地図表示もわかりやすく、交差点はランドアバウト(ロータリー)方式で、曲がるところを間違えてもリカバリーがきく。サービスエリアも完備。車で旅行するには本当に有難い国である。
当然長距離バスも発達している。駅と接続したり、空港と接続したり、様々な交通機関と縦横にリンクして、車に乗れなくてもおよそどこへでもいけるようになっているのだ。

しかし、当時はそんなことわかるわけもなく、バスの運転手さんは腕に刺青したいかつい人だし、言葉はわからないし、外は真っ暗で景色もみえないし、へんなところで降ろされちゃったらどうしようと泣きそうな思いでバスにのったのであった。

そして2時間。降ろされたのは目的地最寄のサービスエリア(ここがバス停になっているのだ)。時間も正確で、当時現地に赴任していた人が迎えにきてくれた。ずっと緊張していたがここに至ってはじめて気が抜けた。

そして滞在するホテルに到着したのが夜の8時くらい。日本から英国の地方までノンストップ、すっかりへとへとになってしまった私は荷解きもせずにベットに倒れこんでしまった。

翌日は日曜日。起きたのは朝の七時くらいか?当然、まだ暗い。暗澹たる気持ちになる。私はホテルの食堂に降りていった。会社指定の宿泊先はオーナー夫妻自ら運営する20室あまりの小さなホテルだ。食事もご夫妻がサーブしてくれる。ここでイングリッシュブレックファストの初体験と相成る。メニューから選んだオレンジジュース、コーヒー、サニーサイド、ソーセージに焼きトマト..そしてごく薄くてかりかりの全粒粉パンが数枚トーストラックで供される。

コーヒーはまずいが、ジュースはフレッシュで目玉焼はつやつやであつあつ。ソーセージはつなぎが多くて塩辛いけどやみつきになる味で、焼いたトマトは以降私の大好物となった。そしてなによりもトースト!日本式ふわふわの食パンが苦手な私にとって薄い(推定10枚切り)全粒粉パンをこんがり焼いたクリスピーなトーストは新鮮な驚きであった。

これが英国式朝ごはんかー。本でしか知らない知識が目の前に展開され味わえる嬉しさ。アレなコーヒーですら、これがポワロが泥水みたいと形容していた英国のコーヒーなのねと感激しながら飲んでいたのだ。ミーハーだ。

そうこうしているうちに夜もあけてきた。部屋に戻って荷物を整理し、とりあえず小さな町を探検しようと外にでた私はびっくりした。前の夜についたときは暗くてわからなかったけど、そこには童話に出てくるような町並みが広がっていたのだ。

イングランド中央部の町、すなわちハートオブイングランド、コッツウォルズは英国でいちばん美しいといわれる地方だ。ライムストーンの石造りの建物で統一された町並み、石畳の小路、町の中央部を流れる運河には野良白鳥や鴨が遊んでいる。きれいなアーチを描く橋。その袂には尖塔をいただく教会と墓地。どんよりと曇った陰鬱な天気の下でも、その町の美しさは十分にわかった(そして後日、夏の出張でこの町に滞在した際には花と緑と光に彩られた風景の美しさを十分に堪能した)。 町はとても小さくて一周するのに30分もかからない。それでも観光地だけあって中心にはインフォメーション、おみやげ物やさんも並んでいるし、もちろん銀行も本屋もスーパーマーケットも完備。レストラン、マクドナルド、ピザハットもあり、どうやら食を含めて生活には困らなそうなことを確認し、ついでにマクドナルドで昼食を買って安心してホテルに戻ったのであった。(その2「英国でのお仕事篇」に続く)


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