よしもとばなな 「海のふた」
不見転で新作を買う現役作家は何人かいる。筒井康隆、小林信彦、村上春樹などなど。そしてよしもとばななも(ちょっと恥ずかしいけど)デビュー作のキッチンからずっと読み続けている作家のひとりだ。
やばいほど精神世界に傾倒していっても最近はリゾート旅行記ばかり書いていても、飽きずに読み続けている理由 -それは人の儚さという無常観を前提に、それでも人は生きて行く、そして何かを残さずには、残されずにはいられないという割と前向きなメッセージに素直に励まされてしまうからなのだ。私の場合だけどね。
新作、海のふたも、まさにそんな感じ。ちょっと雰囲気は「TUGUMI」に似ているかな。
今回の作品のメインテーマは寂れ行く故郷 - かな。ゆっくりと生命力を失っていく海辺の町 - 故郷に対して、その衰退をとどめることはできないけれど、何かを注がずにはいられなくてかき氷屋をひらく主人公まりと大切な祖母を失ってひとの悪意に深く傷ついたはじめとのひと夏の物語。なにが起きるわけでもなく静かに流れる日常が心にふかく染み入ってくる。
そして物語の終わりと共に気づくのだ。終わらない日々はない。失くならないものなんてないけど、人は今日も生きてここで出来る事をするしかない。再会の約束 - それは果たされることは無いのかもしれないけれど - このあっけらかんとした喪失感と希望!やっぱり好きだなあばなな。
食べ物の描写がおいしそうなのもよし。今回はかき氷とエスプレッソ。続キッチンの「満月」に登場したかつ丼はほんとうにおいしそうで、命を救うことのできるパワーに満ちていた。一番好きな話は「ムーンライト・シャドウ」。川の向こうに二度と逢えないひとが佇む。こんなにもふたりの間は隔てられてしまったけれど、やがて来るあさに光に解けて消えてしまう姿だけれど、二人が愛し合った時間はけしてなくなりはしない - 私のエヴァーグリーンなのだ。
<いい天気なので葉山でお茶。えびとアボカドのベーグル。飲み物はカシスのソーダ。私がジン・トニックを飲んだことは秘密だよ>
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