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ネットワークビジネス私見

さて数年前、私は新宿の或るビルに入居しているお客様の下で仕事をしていた。
そのビルは一階に本屋があった。活字中毒には非常に嬉しい立地で私は仕事の行き帰りにその本屋を利用していた。

その本屋、異常に人の集まる一角があった。不審に思いその売り場を見やると「ネットワーク・ビジネス」の貼り紙が。「ネットワーク・ビジネス? LAN/WANのことかしらん?」と思って近づくと何やら売り場に置かれた書籍の表紙には成功だの勝者だのポジティブな文字が並んでいる。得心がいった。そのビルには(ネットワーク・ビジネスを展開している)某社が入居していたのだ。どうやらセミナーなども開かれているらしく、参加者がセミナー参加後にその本屋で関連書籍を買い求めていたのだ。

そしてある日、私はビルのそばで、若いサラリーマン風の男性二人に遭遇した。彼らはハイテンションで肩を叩きあいながら言っていた。

「俺たち、成功しような!」
「そう、成功者の中の成功者になろうな!」

吐き気がした。

私は大学を卒業して程なく結婚した。当時は夫も私もコンピュータ・メーカーの駆け出しのエンジニア。蓄えも無くサラリーも低い。東京郊外の木造アパートで慎ましい生活を始めたばかりだった。夫と私は大学時代同じサークルに属していた。新居にも共通の友人が訪ねてくることもあり楽しくやっていた。

サークルの同級生に親分肌の友人がいた。彼はサークルのリーダーを勤め、懐が深く情に厚く、先輩後輩に慕われていた。夫の親しい友人でもあり、学生時代はよく一緒に遊んでいたようだ。結婚してしばらくしてその友人から夫に電話があった。

「相談したいことがあるんだ。今度遊びにいってもいいかな?」

夫は、半ば心配そうに、半ば嬉しそうに待っていた。同期で結婚したのは私たちが最初。
「俺に相談したいことって何かなあ。結婚でもするのかな。なにか助言できることがあればよいのだが」
夫は本当に彼が好きで、彼のことを思いやって待っていたのだ。程なく彼が訪ねてきた。そして開口一番彼はいった。「紹介したい製品があるんだ。これは - 」
そう、某ネットワークビジネス系製品の売込みだ。彼は非常に熱っぽく語った。その製品は質もよく環境に優しく、したがってそれを頒布するのは社会にとっても販売者にとっても益である。是非、彼の下で私たちもその製品を売らないかと -

夫は喜怒哀楽をあまり外には出さない。しかし私には彼が心の中で打ちのめされているのがわかった。彼にとってかけがえの無い親友は彼をビジネスのひとつのルートとしてしかみなしていなかったのだ。
私は言った。「あなたの言い分はわかった。しかしそのビジネスは魅力的なものには見えない。私たちはやりがいのある仕事をしておりそれで手一杯。サイドビジネスをしている余裕はないのだ」と

すると彼はいった。「でもそれって企業の飼い犬だろう?やっぱり男なら独立して大きなビジネスをしなくちゃあ」

ふざけるな。他人の作った製品を他人の作ったフォーマット通りに売って、何が独立だ、ビジネスだ。あなたこそが成果のみに目が眩み信頼も友情も土足で踏みにじった詐欺まがいの金儲けビジネスの飼い犬だ(飼い犬ごめんね)。

怒髪天をつき彼を罵る私を諌めたのは夫だ。

10年以上も前のことだ。夫はその後も屈託なく友人とつきあっているし、彼も二度とビジネスの話を持ち出さなかった。別に友人の性格が変わったわけではない。彼は今も面倒見の良い男気に溢れた良い人間だ。あれは私たちのあいだではなかったことになっている。しかし私は夫の信頼を足がかりにビジネスをしようとした友人を心の底では今も許してはいない。

ことほどさように私はネットワークビジネスが嫌いだ。

私は米国系企業で米国由来の製品を彼らのセリング・ストラテジーの下に販売している技術系営業だ。製品同様そのセリングもシステマティックなフレームワークにのっとったものであり、ネットワーク・ビジネスも同じ根から生じたストラテジックセリングの一形態であることは理解している。

しかし、セリングはただ販売だけではない。プレとポストが存在する。即ち - セラーはバイヤーとの間に信頼関係を築き、良い製品を販売する。そして販売後もご満足いただくようにサポートするということだ。

私見ではあるが、セリングの真髄・醍醐味はそのプレ・ポストにこそあると信じている。
ビジネスに厳しい目を持つお客様の信頼を勝ち得たとき、製品およびサポートにご満足いただけたときはほんとうに嬉しく、努力が報われたときの充足感はなにものにも変えがたい。これはその出自が米国であれ日本であれ商売の普遍の基本と私は思っている。

ネットワークビジネスのセリングには、このプレとポストがない。そのルート・トゥ・マーケットは新規に開拓するものではなく、家族・友人などのセラーの既存の人間関係を利用するわけだ。公私の無い販売活動は甘えを生む。そこには、バイヤーがセラーの提供する製品・サービスをシビアに検証し、多くのコンペと比較して選び、更にフィードバックするというプロセスが抜け落ちているのだ。

ネットワークビジネスはお客様との間に築く信頼関係やそれより得る充足感をバイパスしたうえに築かれるインスタントでミゼラブルな金儲けの手段だ。それを選ぶ人が多いことも事実だし、否定はしない。しかし私はそれを決して選びはしないし、勧誘いただいても丁重にお断りするだけだ。

そういうわけで、日記にコメントをいただけるのはとても嬉しいのですが、宣伝、勧誘に関するもの、公序良俗に反するものは管理者の判断により断り無く削除させていただく場合があります。今後ともよろしくおねがいいたします。

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