« En phase terminale | トップページ | Le dialogue »

L'œuf de Pâques

復活祭の休暇を古巣のアパルトマンで過ごしていた彼らの部屋をノックした管理人の女性は、中庭に卵をたくさん隠したのだといたずらっぽく笑った。怪訝そうな顔をする彼女に小さな籠を渡し、その卵はチョコレートやキャンディでできたお菓子で、今日はそれを好きなだけとってもよいと促した。

籠を持って嬉しそうに中庭に飛び出していった彼女はこの肌寒い陽気にワンピースという軽装。彼はあわててカーディガンを持って追いかける。出逢いから何年もたつのにその少女めいた容貌もほっそりとした肢体もあまり変わってはいない。ただでさえ若く見られるアジア人ゆえ、いまでもティーンエイジャーに間違えられるほどだ。

彼はポケットを探り、煙草とライターをとりだした。ゴロワーズをくわえて、かちりと火をつける。一服して煙をはきだし、それでも流石に - と彼は目を細めた。

ステージの上の彼女は、時折ぞくっとするほどの艶かしさを見せる。その音もその表情も過剰といわれるほどに多彩 - それは彼女のライバルと評されるチャイニーズのピアニストの硬質で清冽な佇まいと音楽との差を際立たせていた。どちらとも共演したことのある(そしてどちらにも手を焼いている)彼は身を持ってそれを知っている。彼は彼女の音楽をたいそう愛していたが、その小さな身の内に渦巻く人の器を超えた才能の奔流は時に彼を打ちのめし、時に彼女を苛立たせた。何度も衝突し、葛藤し、離れかけた - しかしその度にどちらかが成長することによって救われた関係。それは今も続いている。

甘やかな痛みの記憶はのんびりとした彼女の声に遮られた。

「センパイ~、また見つけちゃいました~。ほわあ、まだまだある~」

彼女が腕にさげた籠にはとりどりの色紙に包まれた卵の形のお菓子。楽しげな姿に彼も笑みで答える。そう、今はただ穏やかに過ぎていく時間を楽しめばよい。

「それくらいにしておけよ。残しておかないと後から帰ってくる連中の楽しみがなくなるぞ。」と彼は咎める。

「わかってますよ~」 といいながら彼女は一向に卵探しをやめない。やがてもういっぱいと満足げに籠を掲げる彼女の笑顔。中庭に溢れる春の光が眩しくて目をあけていられない。

Le printemps - これから欧州のいちばん美しい季節が始まる。


Fin

2007.3.26

liste

|

« En phase terminale | トップページ | Le dialogue »