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Le croissant

どうやらスコアを読みながら長椅子で転寝をしてしまったようだ。いつの間にか日はとっぷりと暮れて、窓の外の仄かな月明かりに部屋は蒼く沈む。

かちりと音をたてて煙草に火をつける。ライターの炎に瞬間照らされて、目に留まったのはだらしなく床に伸びた存在。周りに散らばっている自室には絶対存在し得ない漫画雑誌やお菓子の袋のありさまに深いため息をつく。

「 - ったく、お前は猫か。どこででも寝やがって」

煙草を灰皿において立ち上がる。足音を立てないように寝室からブランケットを持ってきて、床で寝入る彼女にそっとかけた。

- 長椅子に戻り、眉間に皺を寄せて考え込む。

何で俺は恋人でもない女を部屋に入れて、こんな勝手をさせているのか。いちばん近しい場所で。心惹かれるのは彼女の紡ぎ出す音楽であって決して彼女自身ではないはずだ。そうだあの音楽 - 暗闇の中、独りで手探りをしながら歩いているような毎日は時折叫びだしたくなるほど耐え難い。そんな鬱屈した心をつかの間慰めてくれるのは出鱈目で滅茶苦茶で - 自由でどこまでも広がっていく天上の。

俺はいつかこんな日々から解放されるのか。それはいつになるのか。

そんな益体もない思考に身を委ねていると視界の隅のブランケットの塊がもぞもぞと動いて栗色の頭がひょっこりと現れた。

「あれー、いつの間にか真っ暗ー。センパイー。」 

「なんだ」 俺は立ち上がり部屋の照明をつけた。まぶしそうにぱちぱちと目を瞬いて、次には大きな伸びをした。その屈託の無いふるまいがひどく癪に障って、俺は邪険に言った。

「まったく人の部屋にゴミを持ち込んで勝手に寝るな。起きたんならとっとと巣に帰れ!」

「えーお夕飯まだデスよー」

「うるせーなー、缶詰でも食ってろ ....あ、作ってやってもいいぞ。その間ピアノ弾いてくれるなら」

「弾きます弾きます。じゃあもじゃもじゃ......ぴぎゃー、殴ることないじゃないでスカー、カズオー」

「うるさい!そうだあれを弾け。Polonaise-Fantasie 、この間往年のArgerich盤を聴かせてやったろう。いくらお前でもあれ以上に奔放な演奏はできまい。」

彼女は不満そうに口をとがらせながら、ピアノの前にすわり - おもむろに、しかし狂いなく冒頭のアルペジオを奏ではじめる。どこまでも上昇する旋律 - それはいつか天に届いて。

俺は解放されるだろう。

Fin

2007.4.5

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